裏切り者の地獄コキュートス

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06 /18 2018
パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂にはゴシック時代のイタリアを代表する芸術家ジョットのフレスコ画があります。
資産家であったエンリコ・スクロヴェーニが贖罪の意味を込めて建設させた礼拝堂にてジョットが作品を完成させたのは1305年でした。
scrovegni
フレスコ画のテーマは「聖母マリアの生涯」「人類の救済におけるマリアが果たす役割」を表します。

奥の壁に描かれている「最後の審判」の地獄の部分を見た時、既視感を覚えました。
inferno1
ルシフェルが上の口と股からそれぞれ人間を食っている図です。

ボローニャの聖ペトローニオ教会に1410年にジョヴァンニ・ディ・モデナが描いた地獄にも同じようなルシフェルが。
inferno2
こちらの地獄は確か詩人ダンテの「神曲」からインスピレーションを受けているはず。
ルシフェルが上の口からユダを、下の口からはブルートゥス(シーザーの暗殺者)を食べている姿です。

ダンテは「神曲」の地獄篇を1304年から1308年頃に執筆したと考えられています。そしてジョットはほぼ同時期にスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画を描いています。果たしてジョットも神曲を読んでからこの壁画を描いたのか?それともこの悪魔の姿は当時考えられていた地獄のイメージだったのか?どちらでしょう。

神曲では「地獄の世界」は、神に反逆したルシフェルが堕とされてできた地獄の大穴が地球の中心まで達しています。大穴は漏斗状で、上から下まで9つの圏に分かれています。
最も下層にある最も重い罪は「裏切り」で、コキュートス(嘆きの川)に裏切り者が氷漬けになっています。
ルシフェルは三面の顔を持った姿になっていて、それぞれの口でイエスを裏切ったユダ、カエサルを裏切ったブルートゥスとカッシウスの三人を噛み締めています。

「裏切り」が最も重い罪になっているのは、ダンテ自身がフィレンツェにおける政争で追放の憂き目に逢った為だと考えられます。

ジョヴァンニ・ダ・モデナの作品ではルシフェルの口は上下2つだけでユダとブルートゥスの2人を食べています。ジョットでは下には口がついておらずただ股座から食われているのですが、イメージとしてはとても近いものになっています。
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ポリュペーモスの恋

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06 /12 2018
マントヴァのテ宮殿は、その内部がフレスコ画装飾によって埋め尽くされている素晴らしい建築物です。
ゴンザーガ家のフェデリコ2世が愛人と過ごす場所として使っていたと言われます。

その中でも「プシュケの間」は「愛」をテーマにした物語が壁に描かれています。
「アモルとプシュケ」「ヴィーナスとマルス」などのエピソードに混じってギリシア神話の巨人ポリュペーモスの姿があります。
palazzo te
ポリュペーモスと言えば、キュクロープスのひとりで、ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場する巨人です。
オデュッセウスたちがポリュペーモスの目を潰したため、ポリュペーモスはオデュッセウスに罰を与えるよう父ポセイドンに祈り、オデュッセウスは故国への帰還を妨害されることになります。

そのポリュペーモスがなぜ「愛」をテーマにした部屋に描かれているのでしょう?
彼の右下に描かれている恋人たちに注目してみましょう。

オウィディウスの『変身物語』では、海のニュンペー(精霊)ガラテイアはシチリア島で川のニュンペーの息子アーキスと恋に落ちます。ところがガラテイアに恋をしていたポリュペーモスが巨石を投げつけアーキスを殺害します。アーキスから流れた血はエトナ山のそばを流れる川となりました。

このようにポリュペーモスの横恋慕が悲劇を生む物語なのですが、この場面ではポリュペーモスはガラテイアの気を引こうとザンポーニャ(バグパイプに似た口で空気を送り込む楽器)を吹き、子グマをプレゼントしようとしています。

2人の恋人たちはそんなポリュペーモスを指差して、何を話しているのでしょうか…?

そしてこのテーマはどのような意図でゴンザーガ家の別荘に描かれることになったのでしょうか?
色々な想像が膨らみますね。

参照 Palazzo Te a Mantova Guide Skira

ユピテルの雷光に焼かれたセメレ

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06 /06 2018
マントヴァのドゥカーレ宮殿の中で、ヴェネツィアの画家ティントレットの特別展が行われていました。
ヴェネツィアルネッサンスの第一人者であるティツィアーノでさえ嫉妬したという、ティントレットの画才。

この作品でもユピテルの力強い神々しさが上手く表現されていると思います。
semele
ユピテルといえば白鳥に化けたり、雨に化けたりして、女性に近づき妊娠させてしまう困った神様ですが…

セメレはギリシアの都市テーバイの建設者カドモスの娘でした。
ユピテルの子を孕んだため、ユピテルの妻ユノが嫉妬してセメレをそそのかします。
「一度だけ神の栄光に満ちた姿で自分を愛してください」と、ユピテルに頼むように。
ユピテルが本当の姿を表すと、その雷光の力はセメレを焼き尽くしてしまいました。
メルクリウスはセメレの胎児をユピテルの太ももに縫いこんで救います。
この時、胎児は6ヶ月。3ヶ月ののちに生まれ出でた子供がバッコス(ディオニュソス)です。

作品の一部が修復のためなのか暗くなっていて、画面全体に広がっていただろうユピテルの炎が見えなくなっているのが残念です。

参照「西洋美術解読事典」ジェイムズ・ホール

柱を支えるものたち

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06 /04 2018
ボローニャとフェッラーラの大聖堂で柱の下にライオンの像が居るのをみて、このモチーフの名前は何だろう?と思いました。

柱の下にある動物の像はstiloforo(スティーロフォロ)、ギリシャ語で「円柱を支えるもの」という意味だそうです。
(そういえばキリストを肩の上に乗せて川を渡った人物にクリストーフォロがいましたね)
ロマネスク教会正面の柱廊式小玄関の柱を支えたり、説教壇の柱を支えたり。
意匠は動物や想像上の怪物だったりします。

こちらはボローニャの大聖堂のファサードが改築された時に教会内部に移設され、現在は聖水盤のベースに使われています。ちょっと笑った感じ?
bologna leone

こちらはフェッラーラの大聖堂ファサードから教会内部に移設されたライオン。
ferrara leone2

ライオンの上に柱を支える怪物の姿も見られます。
ferrara leone

ライオンがよく使用されるのは「剛毅」のシンボルだから、教会の入り口に置くことで聖なる空間を見守っているわけです。ライオンはそのままキリストのシンボルとして使われることもあります。

これによく似ているのが
cariatide(カリアティード) 頭上のエンタブラチュアを支える柱の役目を果たす女性の立像。古代ギリシャから使われてきました。ルネッサンス時代には暖炉の装飾に用いられたり内装にも見られるようになります。

telamone(テラモーンあるいはアトラス)男性の彫刻を柱、橋台、付柱などに施したもので、マグナ・グラエキアで発生。

古代ローマの建築家ウィトルウィウスが著書の中でカリアティードやテラモーンに触れていたことから、ルネッサンス時代にこれらが復活しました。

ピサ大聖堂の説教壇の下の柱はカリアティードからスティーロフォロまで揃っています。
pulpito

ローマの慈愛

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06 /02 2018
「caritas romana(ローマの慈愛)」というテーマの絵画作品を時々見かけます。
フィレンツェのウッフィツィ美術館にもありますし、マントヴァのドゥカーレ宮殿でも見かけました。
博識なお客様が「スザンナと長老たち…?いや、違う…?」と考え込まれていました。

老人と胸をはだけた若い女性がいるという点ではダニエル書のスザンナのエピソードに近いのですが、この「ローマの慈愛」では若い女性が老人に自らの乳を飲ませている図になっています。

こちらはカラヴァッジョの影響を受けたバルトロメーオ・マンフレディの作品。ウッフィツィ美術館にあります。
carità
英語では「Roman Charity」という題名で呼ばれます。

紀元前1世紀生まれの古代ローマの歴史家ヴァレーリオ・マッシモが書いた「Factorum et dictorum memorabilium libri IX」の中で語られている話がベースです。

牢屋に入れられ餓死の処刑が決められた父親を救うために、牢屋を訪れ自分の乳を与える娘。
看守に見破られてしまいますが、彼女の行為に感銘を受けた責任者によって父親は牢屋から出されました。
この話はエトルリア神話のUniがHercleに乳を与える話から影響を受けてる可能性があります。

このテーマは多くの画家が扱っていますので、いろんな美術館で見られますよ。

伊藤裕紀子

イタリアのフィレンツェ在住25年目。フィレンツェ県とピサ県の公認ライセンスガイド。何年たっても知り尽くせないイタリアの魅力を追求中。個人旅行のガイド、通訳の依頼も請けております。