昇天と被昇天 l'ascensione e l'assunzione

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08 /13 2017
8月15日はカトリックの大きな祝祭日「聖母の被昇天祭」です。

天に昇られた出来事を、イエスの場合は「昇天 ascenzione」マリア様では「被昇天 assunzione」と呼ぶのはなぜなのでしょうか?

その違いは…
イエスは自分自身の力で天に昇り
マリア様は聖霊の力で天に昇らせられた

マリア様はイエスと違って普通の人間だったので、聖霊の力によって天に運ばれたのですね。

絵画作品でも二人の昇天の様子は違う表現方法が使われるのでしょうか?
ペルジーノの作品で見比べてみると

イエスの昇天
昇天

聖母の被昇天
被昇天
両者ともアーモンド型の光に包まれて昇天していく様子ですが、確かにマリア様は腰掛けていることもあって「運ばれている」様子が強調されているようです。

最後の審判の日が訪れると、すべての信仰者は体が蘇り、体と別になっていた魂と再び一体化して天の世界に導かれます。マリア様はそれを先取りして体と魂が一緒に天国にあげられたという教義を表現するのが「聖母の被昇天」です。

ちなみに二つの名詞の他の意味を並べてみると…

ascensione (キリストの昇天)上昇、登ること、昇行

assunzione (聖母の被昇天)請負、昇進、就任、雇用、採用、審議
 
そして昇天する聖母マリアのことを「Assunta アッスンタ」と呼び、イタリア中に「サンタ・マリア・アッスンタ教会」が数多く存在します。例えばピサのドゥオーモもサンタ・マリア・アッスンタ教会なんですよ。
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格天井とステレオスピーカー

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07 /16 2017
ピサ大聖堂の天井は格天井(ごうてんじょう)です。
ピサ大聖堂
建築において天井やヴォールトを覆う正方形、長方形、八角形などの形状のくぼんだパネルを格間(ごうま)と呼びます。そして格間で覆われた天井が格天井(ごうてんじょう)です。

エトルリア時代、古代ギリシャ、古代ローマを通じて、石造りの格天井が見られます。ローマのパンテオンの天井もこの様式ですね。
またピサ大聖堂の天井のような木製の格天井はルネッサンス初期から例があります。バロック〜新古典主義の建築でも使われていきました。

イタリア語ではcassettone(カッセットーネ)
「大きな引き出し(cassetto)」という意味でしょうか。
あるいは「大きな箱(cassetta)」かな?

ピサ大聖堂の格天井を観ながら、音響機器に詳しいお客様から「これって石の壁や床に反響する音を吸収する役割があるんじゃ無いでしょうか?その時代からわかっていたとしたらすごいですよね?」と、ご質問をいただきました。

調べて見ると、格天井の目的は天井の重量を軽くするために用いられています。
ただし格天井を壁画でだまし絵のように表現する場合もあり、こちらは装飾が目的ですね。
なので音響に影響があるとしても、それは副次的な効果なのだと思います。

ちなみにステレオスピーカーのことはイタリア語ではcassa(箱)となるので、言葉的には繋がりが感じられますよね。

Panca di via 道のベンチ

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07 /07 2017
直訳すると「道のベンチ、長椅子」となる「Panca di via」は、歴史的建築物の正面(時には側面)の下部に設けられる部分で、腰掛けることができます。
パンカ2
その使用目的は「座る」こと以外に、交通手段の衝突を防ぐ「paracarro(車止めの石柱)」として、建物基盤に挿入されたエレメントです。
歩道がなかった時代の名残なんですね。

パンカ・ディ・ヴィアは貴族や有力な家族の邸宅に設置されました。
市民はこのような家に商用で赴いたり、贈り物を届ける時に、入り口横のパンカに座って自分の番を待ったのです。

パンカ・ディ・ヴィアは古代建築要素のcrepidomaに似ています。
古代神殿の基盤が外部にせり出したようになっていたのがcrepidomaです。プリンス(祭壇や墓などの台座、台石のこと)と呼ばれますね。
これはシンボル的に地上のレベルとは違う住宅(神の住まい)であることを表すものでした。

フィレンツェではメディチ・リッカルディ宮殿やストロッツィ宮殿などにパンカ・ディ・ヴィアを見ることができます。
中世の町の様子が描かれた絵画では、人々がパンカの上に立って行事の行進がよく見えるようにと使っていた様子もわかります。

参照 Storia dell'arte italiana, Electa-Bruno Mondadori, Milano 1990

イノシシは荒れ狂う自然の力のシンボル

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06 /12 2017
古代の彫刻によく出てくる動物として「イノシシ」についてまとめて書いたことがありました。

フェドラとイッポリートと猪
エリュマントスの猪
カリュドーンの猪

なぜイノシシを扱ったテーマが多いのでしょうか?
「ヨーロッパの装飾と文様」という本によると、イノシシは
◉太陽をあらわす
◉ライオンに次ぐ聖獣
◉荒れ狂う自然の力
◉北欧では森の騎士と呼ばれる

ならばギリシャ神話の英雄がイノシシと戦って倒すという物語は、人間の自然に対する挑戦…?
体が大きくどう猛な動物であるイノシシは人間にとって自然の脅威の代表的な存在で、それを征服するという功績が英雄のシンボルだったのでしょう。

紋章学(araldica)では、イノシシには「大胆不敵」「どう猛」のシンボルであり、「狩り」のエンブレムです。
また鷲とともにローマ軍のエンブレムにも使われていました。
さらにイノシシのイメージは、古代ガリア人(中央アジアの草原から馬と車輪付きの乗り物でヨーロッパに渡来したケルト人のうち、ガリア地域に居住した諸部族)とも結び付けられています。

日本でも「猪突猛進」という言葉があります。この動物のどう猛なイメージは土地を超えて同じものなんですね。

テトラモルフォ

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06 /10 2017
キリスト教の『新約聖書』に収められている四つの正典『福音書』の記者4人を、福音書記者と呼びます。
そして4人にはそれぞれシンボルがあり、次のような解釈が与えられています。

聖ヨハネ 人(天使)…人間としてのキリストの誕生
聖ルカ  雄牛 …十字架における刑死における犠牲の動物
聖マルコ 獅子 …復活におけるキリスト
聖マタイ 鷲  …昇天におけるキリスト

この4つのシンボルにテトラモルフォという正式な呼び方があることを知りました。
tetra(ギリシャ語語源の「4」)+morfo(ギリシャ語語源の「形態」)

4つのシンボルは、旧約聖書にも新約聖書にも記述がある天的存在が元になっています。

『旧約聖書・エゼキエル書』 預言者エゼキエルが不可解な四体(四人)の天的存在に出会った。
『新約聖書・ヨハネの黙示録』ヨハネの幻視の中に現れる神の玉座のまわりの四種類の天使的存在。

エゼキエルの幻視に関しては、パラティーナ美術館のラファエッロの作品がすぐに思い浮かびますね。
エゼキエル
小さいサイズの作品でありながら、壮大なイメージです。

美術の世界では、テトラモルフォはロマネスク様式の彫刻に頻繁に使われるようになり、新約聖書を唱える「説教壇」のモチーフに見られます。またルネッサンス時代には丸天井のペンデンティヴの4つの空間にテトラモルフォをフレスコ画で描くことが通常となります。

とにかく彫刻にも絵画にもこの4つのシンボルは頻繁に出てきますので、キリスト教美術を鑑賞する時に覚えておくといいですよ。

伊藤裕紀子

イタリアのフィレンツェ在住24年目。フィレンツェ県とピサ県の公認ライセンスガイド。何年たっても知り尽くせないイタリアの魅力を追求中。個人旅行のガイド、通訳の依頼も請けております。