プラートのドゥオーモ(3)フィリッポ・リッピのフレスコ画

フィレンツェ散策
05 /09 2014
フィレンツェの隣町プラートのドゥオーモを紹介するシリーズです。
今日はこの教会の目玉作品、フィリッポ・リッピのフレスコ画についてまとめます。


「聖ステファノと洗礼者ヨハネの物語」は主祭壇の礼拝堂にフィリッポ・リッピが1452〜1465年に制作しました。

プラートのドゥオーモの祭司長であったインギラーミは、当時非常に影響力のあった人物です。ローマとフィレンツェの有力者と深い繋がりがありました。美術に理解が深い人文主義者で、ルネッサンス時代の多くの芸術家に作品を依頼し、プラートの町まで呼んで制作をさせました。ドナテッロとミケロッツォによる説教壇などがいい例です。

主祭壇の礼拝堂を装飾する時に、インギラーミはフィレンツェでもっとも活躍している芸術家を呼ぼうと決めます。大司教アントニーノ・ピエロッツィを介して、フラ・アンジェリコに依頼の手紙を送ります。画家はプラートまで赴きますが、すでに高齢であったこと、他の作品の依頼もあり、またこの礼拝堂の面積が大きすぎたこともあって、制作を辞退しました。
2番手に依頼を受けたのがフィリッポ・リッピだったのです。制作中はプラートに住むことになり、助手のフラ・ディアマンテを連れて町にやってきます。

制作が終わるのには14年の歳月がかかりますが、これは尼僧ルクレツィアと恋におちて、ドゥオーモの近くの家に一緒に住んで二人の子供をもうけるなどの時期を含みます。このスキャンダルな事件はメディチ家のコジモの取りなしによって、法王から還俗の赦しを得ることで解決されました。
作品が完成した1465年の翌年にフィリッポはスポレートの町に移り、そこで4年後に亡くなります。

礼拝堂の左の壁には聖ステファノの物語が、右には洗礼者ヨハネの物語が描かれています。
二人の聖人の物語は上から下に進みます。従って一番上のルネッタの部分はそれぞれ聖人の生誕の場面です。そして一番下が聖人たちの殉教の場面です。

「聖ステファノの物語」
◉生まれたばかりステファノが悪魔によって攫われる場面です。悪魔が豊かな家に生まれたステファノを他の子供とすり替えています。こうして聖人の未来は変えられてしまいます。右上では成長したステファノが司教ジュリアーノに出会っています。
fl8

◉真中の場面ではステファノの姿が一つの場面の中に数回も出てきます。
左から司教ジュリアーノに別れを告げるステファノ、悪魔払いをするステファノ、説教をするステファノになります。
fl5

◉ステファノ殉教の場面。エルサレムのユダヤ法院で説教を行ったことから、石打ちの刑に遭います。
fl4
こうして彼はキリスト教の歴史上、最初の殉教者となりました。

◉ステファノの葬儀。周りの人々にフィリッポは、当時の人物を描きました。赤い服のピオ2世、その後ろにメディチ家のカルロ、横にはフィリッポの自画像と助手のフラ・ディアマンテの像が描かれています。
fl6
遠近法を駆使して、壁の上に奥行きのある建築物を見事に再現しています。

「洗礼者ヨハネの物語」
◉ヨハネの生誕と命名
fl7
ザカリヤが主の宮で香を捧げていると、大天使ガブリエルが彼の前に現れてヨハネの誕生を予告します。彼は天使の言葉が信じられず、びっくりして口がきけなくなってしまいます。
やがて子供が生まれると、父親にちなんでザカリヤと名付けようとしますが、母親はそれを拒み、ヨハネという名前にしようといって聞きません。話す力を奪われていたヨハネは「その名はヨハネ」と書いて同意を表すと、その時から再び話せるようになりました。

◉両親との別れ、砂漠での祈りと説教
fl2
ヨハネは両親に別れを告げ、天使の導きによって、荒野で隠遁生活を送ります。イタリアやスペインではヨハネをあどけない少年として描くことが多いようです。

◉ヨハネの斬首
fl3
◉ヘロデ王の晩餐、エレガントなダンスを踊るサロメには、フィリッポの恋人ルクレツィアを描いたとも言われます。サロメはヨハネの首を王に差し出します。
fl1
ヨハネは兄弟ピリポの妻ヘロデヤを嫁ったヘロデ王を叱責したため、捕らえられ牢につながれます。
ヘロデ王の宴会で、ヘロデヤの娘サロメが素晴らしい舞を踊ります。王は褒美に継娘に「望むものをなんでもあげよう」と約束します。ヘロデヤは盆にのせたヨハネの首が欲しいといいます。
右のほうでは、サロメがヘロデヤにヨハネの首を見せています。すべて彼女の差し金であったことを示しています。

このフレスコ画はセッコ画法で描かれた部分も多く、一部がかすれてわかりにくくなっている部分があります。修復ではこれ以上、色が剥離しないように作業されました。

場面の主役の人物たちは素晴らしい洋服の襞をまとっています。また奥行きのある空間構成もモニュメンタル性を出すのに一役買っています。透視図法の消失点を場面にいくつか持たせることによって、複雑な構成としました。

参照
Antonio Paolucci, Filippo Lippi, Giunti Editore 2007
Gloria Fossi, Filippo Lippi, Scala 1989
Pierluigi De Vecchi ed Elda Cerchiari, I tempi dell'arte, volume 2, Bompiani, Milano
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

伊藤裕紀子

イタリアのフィレンツェ在住24年目。フィレンツェ県とピサ県の公認ライセンスガイド。何年たっても知り尽くせないイタリアの魅力を追求中。個人旅行のガイド、通訳の依頼も請けております。