反転する受胎告知 サルト「サン・ガッロの受胎告知」

写真館
05 /20 2014
受胎告知の場面は、宗教画の中でも大変人気のある場面です。
大天使ガブリエルがマリア様に受胎の告知をするこの場面では、多くの場合、ガブリエルを左にマリア様を右に配置します。その理由は以前の日記で書きました。それではなぜ二人の立ち位置が反対になっている場面があるのかというと…

こちらはアンドレア・デル・サルトが描いた16世紀の「サン・ガッロの受胎告知」パラティーナ美術館に展示されています。
受胎告知

これはフィレンツェのサン・ガッロ教会のためにサルトが制作した2番目の作品です(1枚目はノリメタンゲレ)
神聖ローマ帝国軍によるフィレンツェ包囲のおりに、危険を察したアゴスティアーニ修道会によってフィレンツェの城壁内の教会に移されました。サン・ガッロ教会は実際その後にカール5世の軍隊によって破壊されてしまいます。

この作品では右から天使が告知を行っていて、伝統的な図像と方向性が逆です。
これは画家が構図を他の画家の作品から借用するときに、構図を反転させて使用することがあるからなんだそうです。
サルトはマリオット・アルベルティネッリの「受胎告知」(フィレンツェ、アカデミア美術館)の作品の構図を反転して用いているのです。
アルベルティネッリの作品の全体画像を見つけることができませんが、ガイドブックで見比べてみると、たしかにマリア様や大天使のポーズや、ガブリエルの後ろに二人の天使がつきそっているところまでよく似ています。

サルトの作品では閉じられた空間ではなく、遠近感のある開かれた空間に場面が設定されています。
背景に廃墟が見られることから、サルトがローマに滞在した後の作品であることが窺い知れます。
書見台の下には白と赤の薔薇が落ちていて、それぞれ「マリアの純潔」と「キリストの受難」を表します。

右上の鳩(精霊)が横からではなく、画面に対して斜めの方向から飛んできているのも画面の奥行きを表す工夫です。

背後の人物は何を表現しているかはわかっていません。上の老人たちが下を指し示し、アーチの下にはほぼ裸の人物がいます。旧約聖書の「スザンナの沐浴」と考えられてきましたが、下にいるのは男性のように見えます。この裸の人物がアダムではないかという意見もあります。

作品の壮大なイメージはフラ・バルトロメーオの影響を受けていた画家の初期の作風です。またレオナルドから学んだ柔らかい色も見られます。天使の髪の柔らかいウェーブなど、細かいところも美しい作品です。

参照 フィレンツェ・ルネサンス6 花の都の落日 日本放送出版社協会
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伊藤裕紀子

イタリアのフィレンツェ在住24年目。フィレンツェ県とピサ県の公認ライセンスガイド。何年たっても知り尽くせないイタリアの魅力を追求中。個人旅行のガイド、通訳の依頼も請けております。