イノシシは荒れ狂う自然の力のシンボル

芸術を読み解く
06 /12 2017
古代の彫刻によく出てくる動物として「イノシシ」についてまとめて書いたことがありました。

フェドラとイッポリートと猪
エリュマントスの猪
カリュドーンの猪

なぜイノシシを扱ったテーマが多いのでしょうか?
「ヨーロッパの装飾と文様」という本によると、イノシシは
◉太陽をあらわす
◉ライオンに次ぐ聖獣
◉荒れ狂う自然の力
◉北欧では森の騎士と呼ばれる

ならばギリシャ神話の英雄がイノシシと戦って倒すという物語は、人間の自然に対する挑戦…?
体が大きくどう猛な動物であるイノシシは人間にとって自然の脅威の代表的な存在で、それを征服するという功績が英雄のシンボルだったのでしょう。

紋章学(araldica)では、イノシシには「大胆不敵」「どう猛」のシンボルであり、「狩り」のエンブレムです。
また鷲とともにローマ軍のエンブレムにも使われていました。
さらにイノシシのイメージは、古代ガリア人(中央アジアの草原から馬と車輪付きの乗り物でヨーロッパに渡来したケルト人のうち、ガリア地域に居住した諸部族)とも結び付けられています。

日本でも「猪突猛進」という言葉があります。この動物のどう猛なイメージは土地を超えて同じものなんですね。

テトラモルフォ

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06 /10 2017
キリスト教の『新約聖書』に収められている四つの正典『福音書』の記者4人を、福音書記者と呼びます。
そして4人にはそれぞれシンボルがあり、次のような解釈が与えられています。

聖ヨハネ 人(天使)…人間としてのキリストの誕生
聖ルカ  雄牛 …十字架における刑死における犠牲の動物
聖マルコ 獅子 …復活におけるキリスト
聖マタイ 鷲  …昇天におけるキリスト

この4つのシンボルにテトラモルフォという正式な呼び方があることを知りました。
tetra(ギリシャ語語源の「4」)+morfo(ギリシャ語語源の「形態」)

4つのシンボルは、旧約聖書にも新約聖書にも記述がある天的存在が元になっています。

『旧約聖書・エゼキエル書』 預言者エゼキエルが不可解な四体(四人)の天的存在に出会った。
『新約聖書・ヨハネの黙示録』ヨハネの幻視の中に現れる神の玉座のまわりの四種類の天使的存在。

エゼキエルの幻視に関しては、パラティーナ美術館のラファエッロの作品がすぐに思い浮かびますね。
エゼキエル
小さいサイズの作品でありながら、壮大なイメージです。

美術の世界では、テトラモルフォはロマネスク様式の彫刻に頻繁に使われるようになり、新約聖書を唱える「説教壇」のモチーフに見られます。またルネッサンス時代には丸天井のペンデンティヴの4つの空間にテトラモルフォをフレスコ画で描くことが通常となります。

とにかく彫刻にも絵画にもこの4つのシンボルは頻繁に出てきますので、キリスト教美術を鑑賞する時に覚えておくといいですよ。

象徴としてのライオンと鷲

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06 /09 2017
先日のブログで「イルカは古代には魚の王と見られていた」というテーマで書きました。

→「イルカは尊き魚のモチーフ」

イルカが海の動物の中で王とされるなら、陸と空の王となる動物はなんでしょう?
陸の動物の王は「ライオン」鳥の王は「鷲」です。
紋章にもこの3つの動物がよく使われています。

また鷲の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ伝説上の生物グリフォンは、王家の象徴や、「神性」と「人性」を持つキリストの象徴として使われました。陸と空の王の特徴を併せ持っているのですから最強です。

→「グリフォンとヒッポグリフの見分け方

象徴としてのライオン
様々な属性が与えられてきましたが、キリストの復活の象徴、有翼ならば聖マルコの象徴(4人の福音書記者のシンボル、テトラモルフォの1つ)
男性的な動物文様で、百獣の王なので勇士や権力者にふさわしいのです。
4大大陸ではアフリカの象徴、美徳では剛毅の象徴。

象徴としての鷲
ユピテルが鷲に変身する物語がギリシア神話にあることから鳥の王。
力と勝利の象徴として、ローマ軍隊の旗にも使われました。中世にはキリストの昇天の象徴、また聖ヨハネのシンボル(4人の福音書記者のシンボル、テトラモルフォの1つ)となります。
寓意表現では悪徳の傲慢の象徴。
また五感の一つ視覚の擬人像の持ち物でした(鷲の鋭く睨む目からきています)
ここから神聖ローマ帝国からオーストリア・ハンガリー帝国に引き継がれた双頭の鷲は「あらゆる方向を油断なく見張る」ことを示します。

また鷹も紋章に使われますが、違いとしては次の点があります。
鷲は大型、鷹は中型
鷲では雄も雌も同色で、鷲だと違う
鷲は胸の部分が白い

ピエロ・デ・メディチが使っているインプレーザは鷲ではなく「爪でダイヤモンドの指輪を掴んだ鷹」ですね。

参照 「ヨーロッパの装飾と文様」 海野弘 パイインターナショナル
   「西洋美術解読事典」ジェイムス・ホール 河出書房

ジャグジーはイタリア発祥

イタリアのトリビア
06 /08 2017
ジャグジーと言えば「浴槽の壁面や床から気泡を勢いよく噴出させる泡風呂」のこと。
イタリア語では「idromassaggio イドロマッサッジョ」と呼びます。
「idro- 水の」+「massaggio マッサージ」というわけですね。

「ジャグジー」と言ってもイタリア人には通じません。ジャグジーって英語?もしかしてフランス語あたり?

と思って調べたら…

なんとジャグジーはイタリアの泡風呂メーカーJaguzzi(ヤクッツィ)という商標名だったのです。
実際にイタリア人に「ヤクッツィ」と言えば、「ああ、高級な泡風呂ブランドね」とすぐにわかってくれます。

ヤクッツィはイタリア、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の多国籍企業。
最初はプロペラで特許を取りましたが、1956年に最初の浴槽用のポンプ特許を申請しました。
1968年には古代ローマのテルメにインスピレーションを得た「Roman Bath」を販売開始、世界初のジャグジーでした。ジャグジー以外にもサウナや多機能プールなどのブランドとして世界的に有名です。

パッツィ家のイルカ

ちょっとかじる歴史の話
06 /07 2017
メディチのライバルであったパッツィ家。
イタリア人の苗字には「なんでこんな苗字が付いているんだろう?」と思うものがいくつもありますが、パッツィ(pazziは錯乱、狂気という意味)もその一つです。

メディチ家の当主ロレンツォと弟のジュリアーノの殺害を企てた「パッツィ家の陰謀」から、このような苗字で呼ばれるようになったイメージがありますが、暗殺事件前からパッツィはパッツィでした。
その語源はもっと古いものです。
ラテン語の「patiens 忍耐強い」から由来する説、同じくラテン語の「pax 平和」からという説、ギリシャ語の「pathos 情念」から来ている説もあります。
苗字の前にdeやdi(いずれも「何々の」という所属を表す)などを先行させるのは、ランゴバルド族の家父長制の遺産で、一族が重要とされていた印です。

ラニエリ・デ・パッツィがフィエーゾレからフィレンツェに移り住んだパッツィ家の先祖とされ、11世紀の頃の人物です。
パッツィ家の古い家紋は三日月をモチーフとしていて、これはフィエーゾレの町の紋章に似ています。

伝説的な人物パッツィーノ・デ・パッツィは、第一回十字軍に参加、エルサレムの城壁の上に最初のキリスト教の旗を立て、サントセポルクロの岩のかけらを3つ入手したとされます、今もこの石は、復活祭のスコッピオ・デル・カッロの花火に火をつける火打ち石として使用されています。

パッツィ家は金融と貿易で豊かになり、政治的にはグエルフィ派でした。
(ヴァルダルノには同じ名前のパッツィ家がありましたが、こちらはギベッリーニ派でフィレンツェのパッツィ家と親戚関係を持つことはありませんでした)

しかしフィレンツェ人が果たして第一回十字軍に参加することがあったのか学者から疑問も提示されています。
パッツィ家の新しい家紋にある「イルカ」は、パッツィ家の人間が十字軍に参加し海を渡ったことの名誉を表すと言われますが、実際にはこの家紋はもっと後の14世紀に神聖ローマ帝国のバル公から頂いたものだそうです。

パッツィ家の家紋
パッツィ家の紋章

バル家の家紋
バル家の紋章

バル公の紋章もパッツィ家と同じく「2匹のイルカ」なんですね。
背景の色や十字架の形までそっくりです。

参照 Antiche famiglie toscane: i Pazzi
   

伊藤裕紀子

イタリアのフィレンツェ在住24年目。フィレンツェ県とピサ県の公認ライセンスガイド。何年たっても知り尽くせないイタリアの魅力を追求中。個人旅行のガイド、通訳の依頼も請けております。